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   ハイジャッカー
「お座り、ユウリ」
 リラの指示通り、その場に伏せるユウリ、気高いヒロインがまるで犬のように振舞っていた。
「あのくそむかつく捜査官も、アルファ3000には呆気ないわね。フン」
 だが、リラは満足できなかった。今の状況はリラがタイムピンクをねじ伏せたのではなく、アルファ3000がねじ伏せたのだった。わがままなリラにとって、少し鼻持ちならなかった。
「いいわ。アルファ3000なんかなくたって、あたしは立派な飼い主になってあげる。まずはあたしの周りを三回まわって、ワンと鳴きなさい」
 それでも、十分に独占欲は味わえる。クロノスーツを肢体にまとったままのユウリが四つんばいになり、リラのまわりをのそりのそりと動いた。
「ワン!」
 ユウリの顔に涙が浮かぶ。そう、アルファ3000の効用により、彼女の意識ははっきりと服従していることを理解できているのだった。
「よし、いい娘ね~」
 ユウリの喉もとをリラがさすった。くすぐったそうな表情を露にしながら泣いていた。
「ううっ…」
「どこか痛いのかしらあ?」
 リラが笑った。ステンレスの台の上に手を伸ばし、真っ赤な首輪をとった。犬用の首輪でマジックペンで「ユウリ」と書き込んであった。
「飼い主様が飼い犬に首輪をプレゼントしてあげるわあ!」
 ユウリは逆らうことなど出来ない。首のスーツの上から首輪をつけられて、表情だけは喜ばしげだった。
「散歩に出かけましょう! さあ、歩くのよ」
 首輪から伸びた紐を持って、明るい調子からいっぺん、冷たい口調でユウリの耳に囁いた。こくりと頷いたユウリはそのまま、下のデッキに通じる階段を四つんばいで下りだした。
「お、おい、下りて来たぞ!」
「いやあぁぁ…」
「あれがタイムピンク…?」
 ユウリはリラのペットにされて、豊かな表情で通路を歩いた。客席にどよめきが走ったが、ゼニットはそのままにした。人々の声には動揺があり、やがて失望に変わった。
 自分たちを守るはずのタイムレンジャーが敵の手に落ち、文字通りの飼い犬になったのだ。ユウリは顔を赤面させていた。だが、誰も逆らえなかった。
「タイムピインク」リラは客室中に広がるような声で言った。「そろそろ、おしっこに最適な電信柱を探さなきゃねえ! 返事は?」
「ワン!」元気のいい返事だった。
「ここなんてよさそうじゃあなあい?」
 ギャレーの週刊誌や雑誌のおいてあるあたりを指して、リラが笑った。そして鉤爪のようになった指で内腿のクロノスーツにちょいと穴を開けてやった。
「マ、マジかよ!?」
「そんなまさか!」
 つやつやと光を放つアクリルピンクのスーツの片脚をユウリが大きくあげた。露になった股間が大開になる。そこからいきおいよく黄金水がほとばしった。タイムレンジャーのリーダー・タイムピンクが犬と同じ格好で放尿していた。
 密閉された機内で激しい臭いが瞬く間にたち込めていった。
「じゃあ、汚くなったお股を舌で掃除しなきゃねえ。やれ」
 そういうとユウリは身体を曲げて、顔を自らの股間に沈めた。驚くほど発達した柔軟な身体は容易にくびれて、ユウリの舌が股間を嘗めた。捜査官としての厳しい訓練の成果が、この醜態だった。
「ちろちろっ…」
「もういいわ」
 アルファ3000の効用に動揺したのはほかならぬリラだった。あのむかつくスーパーヒロインでさえ、難なく堕ちてしまう薬の威力に愕然としながらも、次第ととてつもない高揚感を覚えた。
「じゃあ次は、一生あたしに服従すると、宣誓をしてもらいましょう」
「はい! 私、タイムピンク・ユウリはリラ様に一生の服従を誓います!」
 少し舌足らずの、快活な痛々しいほどの明るい声だった。悲痛なため息が漏れ、どす黒い空気が流れていた。
「じゃあ家に戻りましょうか、ユウリ」
「はい!」
「ワン、でしょ」
「ワン!」
 リラはユウリをもう一周させると、アッパーデッキに通じる階段をのぼった。上まで来ると、ギエンが階段のシャッターをしっかり閉めて、乗客のいるデッキに薬品を散布するためのスイッチを押した。
 まだ、この飼い犬の存在を世間に暴露するわけにはいかなかった。
 だから、乗客たちの記憶から、楽しいクルージングフライトだったという事実だけを残して、一切を消去するためだった。彼らはこれからも平穏な暮らしを送るだろうし、こんな残虐なショーには二度と立ち会うことはないだろう。ただ一匹のメス犬を除いては。

 手術台を取り払い、ゼニットが大急ぎでダブルベッドを固定した。その中にユウリを寝かせる。
「いい? あんたはもう犬じゃないからね! 犬みたいな動きをしたら、この躾役のあたしが許さないんだから」
「解りました。リラ様」
「じゃ、十分楽しんでね」
 リラはギエンを連れて、その部屋から出た。そしてベッドで横になるユウリの目の前に大柄の影が姿を現した。
「よう、タイムピンク」
 マフィアのボスという立場上ドン・ドルネロはたくさんの女と寝る。リラが一応の専属のような形になってはいるものの、ある程度の歳にもなれば、若い女をとっかえひっかえできるぐらいの精力が無ければ、この世界では生き残れないし、すばらしい稼ぎのアイディアも生まれない。
「今日もこの葉巻がうめえなあ。お前も吸うか?」
 合成葉巻が主流の三〇世紀と違って、この原始時代では、一流品でしかもキューバ産の葉巻が好きなだけ吸える。にも関わらず、この時代の女はどれもこれも、駄目なものばかりだった。
「はい、喜んで」
 その影響か、ドルネロの商売の勘も次第に衰えていった。だが、ユウリは紛れも無い三〇世紀の女で、しかも公職についた女だった。札束積んでもそんなプレミア品、この時代では手に入らない。
「よし、これを一本やろう。むせたら承知しねえぞ」
 ドルネロはキューバ葉巻を取り出してやると、金のライターで火をつけてやった。こういうところで、気前よくなきゃいけない。たとえ犬相手でも、ケチケチしてたら、マフィアのドンになんてなれはしねえ。
 ユウリはピンク色のグローブで葉巻を手にすると、紫色の煙を吐き出した。煙が自然と丸い輪になった。ドルネロがスーツに向けて煙を吐いた。その表面がきらきら光る。
「全くよ、上物だな。お前みたいな女が俺様を追いかけてたなんて、ゾクゾクしちまうな。そうだろ、俺様をおいかけてゾクゾクしてただろう」
「はい、ドルネロさまはとてもセクシー……」
「そんなラブコメディの台詞みたいなのはいらねえ。欲しいものはその心だ」
 ドルネロの手がユウリの胸に伸びた。形状記憶金属として体表面に形成されるクロノスーツは度重なる衝撃にも一切形が変わらない。
 ぴんと張り詰めたスーツに何度目かの皺が寄った。ドルネロが手を離すと元通りになる。ドルネロはそれを繰り返した。
「うく…」
 ほのぼのとしているのか、苦悶しているのか、快楽しているのか、ユウリの表情はどうともとれた。
「さて、そのお股を俺様に見せてみろ」
 ユウリはベッドの上で大きく開脚した。リラがあけた穴から、鬱蒼と生い茂る若草が露になっており、その間からうっ血して腫れ上がった肉が姿を覗かせていた。
「タイムピンクもここばかりは臭せえなあ」
 ドルネロはそういうと、指を伸ばして、若草の裏側に張り巡らされている筋肉の筋をなぞった。
「うぁぁぁぁ」――ユウリの張り詰めた声。
「さすが三〇世紀の発達した身体だな。原始人どもはここらへんには神経の一つも生えてねえんだよな」
 ドルネロは筋に沿って、クロノスーツの上から撫でた。そのうち湿り気を帯びた若草が鼓動に合わせるように微かに息づき始めた。タイムピンクは武者震いをした。
「感度良好だな」
 ドルネロはその愛液を爪ですくうと、ユウリの口元に持っていった。彼女のほうから舌が伸びて、その液をなめた。
「レンジャーてのはストレスが溜まるだろう?」
「は、はい…」震えている。
 ピンク色の内腿を露にしたユウリがドルネロにその中を覗き見られただけで、濡れ始めていた。アルファ3000にはこの手の薬物にはかならずついている感覚を研ぎ澄ます作用が備わっており、意識の中の本物のユウリはこれまでにない感覚の高ぶりを押えられずに心の中で泣き叫んでいた。
「俺様のが欲しいか?」
 ドルネロは眉を動かした。ユウリの表情が一瞬勝気な人を見下すようなしかめ面になり、すぐに氷解した。
「ください――」
 酒や煙草で精力が落ちるという噂はドルネロには通用しない。ドルネロの精力は未だ十代の少年より勝っており、その内に燃え上がる炎が噴出すと、誰も抑えられなくなる。だが、ドルネロはそれをコントロールするすべを身に付けていた。
「はやく、ください――」
「よしよし」
 ユウリの目の前に、ドルネロは自らの肉棒を曝け出した。肉体のいびつな発達ともに超成長した身体の持つ肉棒はその長さはもとより太さ、質感ともに人間のものとは思えないほど発達していた。
 ユウリが脚を震わせて、犬のような無様な醜態を晒しているのに対し、ドルネロはあくまで毅然と振舞っていた。その肩まで掛かる黒髪に手を絡ませて、目前まで持ってきた。
「どうだ」
 舌を出してユウリがその肉棒に触れようとした。舌の先が震えている。ドルネロはそんな舌には目もくれず、一直線に発色のいいピンク色の唇の間に肉棒を突っ込んだ。
「んんんんっ…」
 瞳を閉じたユウリがその肉棒をしっかり舌で受け止め、雨でもなめるように転がしはじめた。
「タイムピンクもなかなかやるじゃねえか」
「んくんんんんっっっ」
 舌で絡めた肉棒はどくんどくんと確かに息づいていた。白い頬にその輪郭が凸になって現れていた。
「おっとと」
 ドルネロはそういって、肉棒から頭を引き剥がした。唾が糸を引く。だがそれよりもかなり多量のザーメンが穴を無理やりこじ開けて、ユウリの顔にほとばしった。ユウリの顔が液まみれになる。ザーメンは広範囲に髪にまで絡まりつき、その矯正の取れた顔についた。
「中々だな。脚をとじて四つんばいになれ」
 ユウリは言うとおりにした。ザーメンが顔から糸を引いてシーツに滴っていく。そのころにはもうドルネロに突き出された内腿は熟していた。肉付きのいいその場所が艶かしいスーツに包まれて、ひときわ目立っている。
「動くなよ」
 ドルネロはスーツの破れ目に指を入れて、穴を広げた。クロノスーツはあっけなく破けていく。若草が終わり、むき出しになったヒップは汗でてかてかになっていた。アヌスが息をするように開いたり閉じたりしていた。
「ちょっと痛いかもしれないが我慢しろよ」
 ベルトをドルネロがしっかり掴むと、ぐいっと手前に引き寄せた。
「ああっ!!」
 その声は快感に悶えているのか、激痛に喘いでいるのか定かではなかった。ただ、一回の射精ぐらいでは全く勢いの衰えない肉棒がヒップの谷間にあるアヌスを捉えて、腸の奥にまで届くような一撃が射しこまれてことは事実だった。
「ああ! んん! はあああん!!」
「いいだろう…いいだろう……」
 ユウリの腰が砕けて揺れた。力の抜けた腕で上半身がザーメンまみれのシーツに倒れこみ、突き出されたヒップにドルネロがじゅぶぶぶと音を立ててなおも深く潜り込んでいく。
「ひぎぃぃ! ああっ、壊れちゃう…」
 あまりのショックに悲痛な声が漏れ出てきた。ドルネロが両腕で腰を揺すり、息もとまりそうなほど声だけが吐き出されていた。
「ああぁん! ああん! ああああ!」
 意識の中のユウリからしてみれば、不思議な出来事だった。信じられない快感と苦悶が身体で感じられるのに、自分の身体が自分のものでないだけに、いっそう感じられるのか、無感覚なのか、さっぱり区別が付かなかった。
「おお!」
 ぐじゅ。ユウリのテンションが最高潮に高まる瞬間、ドルネロが力の限りペニスを引っこ抜いた。栓が抜けたように腸の奥からあふれ出た血液がアヌスの弁につかまり溜まって、一気に吹き出た。
 シーツに滴る血をヒップが押しつぶす。仰向けにしたユウリを両腕で抑えたドルネロはその勢いで、じゅぶぶっぶぶぶ! 挿入した。
「あああああぁぁぁんんん!」
「もっと鳴け。アヌビスの犬みたいにな。うおおぉ!」
 不気味な声でドルネロが囁いた。騎手のようにユウリの上で激しい上下を繰り返すドルネロはそのうち興奮がいっそう高まるのを覚えた。
 ベッドの上でユウリの胸がそのスーツの締め付けにもかかわらず、激しく上下していた。その矯正ある顔が歪んであらゆる表情を飲み込んでいた。
「ああああっ! いくうううううう! いやああああああ!」
 ピンク色の身体をしたユウリは、本物の意識さえも、そのまま絶頂を迎えてしまった。オルガズムのメイルストリームが吹き荒れたあと、その身体は火照って硬直していた。

「んんんっ…………」
 額に皺を寄せて、口を結んでいた。噴き出る汗に身体が悪寒を引き起こしていた。濡れた素肌が艶かしい。ユウリは苦悶に喘いでいた。
 誰かの声がする。その声は急き立てるようだ。そんなに彼女を強い調子で責めているのは誰だろう…… ユウリは意外なほど打たれ弱かった。捜査官でありタイムレンジャーのリーダーであったから、元来押しは強い。しかし、押し返されたときは、同年齢の女性らしい、繊細さと純粋さだけを持っていた。
「や、やめて……」
『ユウリ―― ユウリ――』
 その声の主はユウリのよく知る者だった。
「いやっ」
『ユウリ――』意識が徐々に晴れていった。「ユウリ! おいっ、起きろよ!」
「はい! えっ、竜也?」
 目の前には、浅見竜也――タイムレッドであり、彼女が密かに思う人がいた。
「どうしたんだよ、ユウリ?」
 いつもの優しい竜也の笑顔があった。気づけば、トゥモローリサーチの仲間たちが彼女を囲んで立っていた。そしてすっかり身を潜めた建物の中にいる。
「……わたし、どうしてたの?」
 ユウリは目の前を見回した。『ベイフライト2001』、リラに襲われて、アルファ3000を注入――首筋に触れてみた。「ここに注射痕ない?」
「え、なんもないけど。
 まったく、心配したんだぞ。帰る筈の時間になっても帰らないから、空港に着てみれば、寝てるんだもんな」
「なんのことなの?」
 やれやれと頭を抱える四人、アヤセが口を開いた。
「ハメをはずしすぎなんだよ。酔っ払って、この到着ロビーでぶっ倒れて、そのままこの椅子で熟睡」
「まったくだよな。リーダーなんだからしっかりしてくれよ」と、ドモン。
「でもしょうがないじゃないですか、そういうこともありますよ、ね、ユウリさん」と、シオン。
 ここは東京空港の人気のない到着ロビー――
 ようやく自分のいる場所を認識して、でも確かにアルファ3000を注入されたはずで……
「私は飛行機の中で、リラが現れて」
「飲んでたんだろう?」竜也までちょっと苛立たしげだ。「疲れてるんだよ、ユウリ。かえってゆっくり休もう」
「そ、そうかも……」頭が少しズキンズキンする。
 竜也の言うとおり、私は飲みすぎていた。ユウリは考えた。だから、あれは…夢? そう、夢。アルファ3000なんて、未来の遺物以上の何ものでもない。そ、そうよ…
「アルファ3000なんて、まさかね」
「なんかいった?」
「ううん。何も。ごめんなさい、迷惑かけて」
「いいよ。帰ろう」

 アルマーニのスーツの巨漢が、遠くのシートで若者たちの様子を伺いながら、葉巻を吹かしていた。
「つぎに変身すればアルファ3000が身体を完全に支配する。それまでは夢を見させてあげようじゃないか。あまりに満ち足りた淫乱の日々を!」
「声がでかい」
 隣のくたびれたシャツのノッポを巨漢がたしなめた。
「面白いじゃない」
 シャネルの白いスーツに身を包んだピンクの髪の女があの醜態を思い出して笑っていた。
 若者たちは到着ロビーからシートから立ち上がった女を囲むようにして出て行った。それを見届けたドルネロとギエンとリラは、すぐ外に呼んだリンカーンに乗り込んで、深夜の街に消えた。
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