溶融肉之宴

「もう逃さへんで!」
 二人の女侍――シンケンピンクとイエローの刀がアヤカシへと向けられる。アヤカシ・ハラワタンはこの風吹くビルの屋上で追い詰められようとしていた。
「へへへっ、シンケンジャー、もう逃げ場がなくなっちまったじゃないかっ……」
 ハラワタンの背後にははるか下の地面まで続く高層ビルの際があって、シンケンジャーの向こうには壁がある
「いくよ、ことはっ!」
「うん!」
 ピンクが声をあげて、イエローが頷く。二人のマスクにあしらわれた『天』と『土』の文字は、墨汁をよく滴らせた毛筆の豪快さを連想させた――そろそろ、本気を出してやってもいい頃だ。ハラワタンは嘲笑った。その為に、ここまで無様な演技で二人を油断させ続けてきたのだから。
「へへへっ、お縄にはとられたくないねぇっ」
「――きゃっ!」
 ここまで来る追跡劇の中で、二人の太刀筋が見えていた。手にした剣をイエローの刀にあてて突き返すと、そのままピンクの目の前に飛び出た。
「なかなかやるじゃないっ!」
 金属のぶつかる音と共に、ピンクが声を漏らす。少々の技の優劣など力で押し倒せる。ハラワタンはシンケンピンクの刀を突き返すと、大股で歩きながら迫った。
「えっ……」
 ピンクはとっさの彼の動きに、顔を向けた。かばうような姿勢で、顔をみあげる。そうだろう――ハラワタンは顔を歪ませた。散々に油断させ鈍らせたのは全て作戦だったからだ。
「どうしたんだ、シンケンピンク!」
 手にした剣を横から流してピンクへ向けていく。相手の身体もそれに動いて、向かってくる武器から身体を守ろうとしていた。だが、思い切りを欠いた攻撃など――
「はっ!」
「きゃあっぁっ!!」
 帯電した剣でシンケンマルを突き返し、同時にその手から跳ね上げさせた。夜の空に白銀の刀はキラキラと回転しながら吹き飛んでいく。
「へへ、ほら、どこをみてんだよ……さっきまでの威勢の良さはどうしたんだよっ!!」
「嘘……!」
 立て直す隙を与えず、相手の内懐に入って壊していく。
「嘘じゃねぇんだよ!」
 ひひひひ笑って、ハラワタンは『天』のマスクを掴んだ。
「あっ!!」シンケンピンクは脚をバタバタさせながら、ハラワタンの手に引き上げ持ちあげられていく。
「茉子ちゃん!」
「これでもくらえ!!」
 ハラワタンは、シンケンピンクを掴んだまま、反対の手をシンケンイエローに向けた。光の弾は、刀を持った女侍の周りに落ちてはその姿を覆い隠していく。
「きゃあっ!!」
「ことはっ!」
「おい、シンケンピンク」仲間を心配する声に、ハラワタンはその天の文字の中を覗き込んだ。「仲間の心配をする前に、自分の心配をしたらどうなんだよっ!」
 彼は更に腕に力を込めていった。卵型のマスクは、天の文字を浮かび上がらせていく。シンケンピンクは肩をいかせてハラワタンの身体を殴ってきたが、その拳は相手を殴る為に作られてなどいない。
「外道衆……!」
「どうした、怖くて怖くて、それ以上何も言えないかっ?」
 ばちばっちっという音とともに、亀裂がクモの巣のようにいくつもの道を作りだした時、シンケンピンクは明らかに焦りを見せていて、ハラワタンは余裕すら感じ始めていた。
「さあ、顔をこの俺様に見せてもらおうか……!」
 音ともにマスクは粉々に砕けて、シンケンピンクは脚から地面に落ちて転がった。その中から現れたストレートヘアの黒髪の間に隠れて、志葉の侍――白石茉子の鋭い顔が見えた。その美貌は狼狽を見せていて、血走った目はマスクを失った周囲を見回したあと、ハラワタンを見あげた。
「へへへへっ!」
 ハラワタンは脚をその胸に向けて突き立てた。鮮やかな光沢を持って光りを放つシンケンピンクの上から、白石茉子の胸丘を踏みつけにした。
「あああぁあぁっ!!」
 誇り高い侍は無様な命乞いなどしない。だけど、声は漏れてしまい、ハラワタンは、その長い髪を掴んだ。ストレートに見えた髪はほのかにウェーブしていて、よく手入れされて、スーツのように光りを放っている。彼の腕に肩が揺れ、美貌は更に歪んでいく。
「ああああぁっ……!!」
「痛いか、シンケンピンク。油断したなぁ……全て作戦だったんだよ。お前らを仲間から引き剥がし、ゆっくり味わうためのなあ……」
「ふざけないで……」
 声をあげるその頬にあざが浮かび上がってくる。
「ふざけてなんかねぇよ……」
 頬は柔らかくハラワタンは、そのキメの細かい皮膚の表面を押してニヤニヤと笑った。シンケンジャーも、一人ずつでは大したことない……
「……茉子ちゃんから、離れや……」
 声は背後からした。頬から手を離しゆっくりと振り返った。
「ひひひひっ、死に損ないが……」
「うちはあれぐらいでは死なん……」
 シンケンイエローの声は震えていて、マスクは半壊していて、土の文字の中から幼さげな花織ことはの顔が見えて、今にも泣きそうな色を浮かべていた。
「茉子ちゃんを……シンケンピンクを離れや」
 それでもイエローは刀を持っている。
「ことは、逃げてっ!」
 切迫した声があたりを響く。そんな声が、シンケンイエローから逃げる口実を奪ってしまう。そんなことも解らない小娘どもが、外道の襲来からこの天下を守っている――ハラワタンはおかしくなって、そのまま、シンケンピンクを一番近くの壁まで引きずってその壁に押し当てた。
「あぁっ!」
「待て!」
「……逃げねぇよっ」
 振り返りながら、ハラワタンはシンケンピンクの髪を掴んでいた手の手首から先を溶かして切り離した。
「俺様が身体を切り離せることぐらい、知ってるだろう?」
 髪の毛を逆巻いてその上で束ねられて、腕は解けて一つの肉塊になって、まるで巨大な髪飾りのようになっていた。
「離して……」
 切り落とした腕は、芋虫のように動いて盛り上がると腕を元に戻した。ハラワタンはシンケンピンクの二の腕を掴んだ。柔らかくて、掴んで壁に押し当てた時、またその身体が崩れて解けて臭いをたてる。壁に十字にさせて、シンケンピンクを固着させた。
「きゃあっ……!!」
「茉子ちゃん!」
 同じように腕を溶かした――腕はまた伸びていった。シンケンピンクから離れ、ハラワタンはイエローと相対した。シンケンイエローはすぐそこにいて、見事な太刀筋を見せていた。
「へへへへっ!」
 ハラワタンがシンケンイエローの刀を掴んで、引き下ろしたとき、腕と肉は急速に解けて音をたてた。力づくで刀を引き下ろされて、シンケンイエローが顔を下に向けてしまう。刀から手を離すと、その俯いたマスクへ拳を叩き込んだ。
「やああゃっ!!!」
 マスクははねとんでいく。きりきり回転しながら、後ろに倒れるイエローの腕を掴んで無理やり引き上げた。童顔がそこにあってくしゃくしゃに歪んでいる。
「あっ……くうぅっ……!」
 その小さい口に向けて、ハラワタンは腕を向けた。腕はどろどろに溶けながら、ペースト状に変わり、桃色に濁りながら渦を巻いている。彼は花織ことはの口にそれを持っていた。小さな口をこじ開け――数秒後には顎が外れると音がして、更に奥へと入り込もうとしていた――
「うふううっ! うぐんんんんっ!!」
 一瞬で白目を向く顔を見て、ハラワタンは笑った。
「ことはっ! ことはっ!!」
 恐慌に陥った人間はまともに喋れなくなる。ハラワタンは力を抜いてだらりとなったシンケンイエローの身体を引きずりあげた。
「はふっはぁっ……なに……」
 腕を引きちぎった。こんな腕、いくらでも再生できる――あえぐ魚のように途切れがちな声をあげるイエローの体内には、かなりの量のハラワタンの肉体が体内に入ったはずでーー
「オレの身体は猛毒だ」口元をべっとり皮脂で濡らして光らせながら、ハラワタンは花織ことはに教えた。「オマエはここで毒に冒され毒に狂い、やがてオマエの仲間も同じように狂っていく……」
「いやや……そんなの、うちが死ぬなんて……」
 振り返って十字に拘束された女を見た――ぎりぎりまで瞳孔を開いていて、茉子は全てを見ていたのに、まともな反応を示していなかった。
「だが事実だ……」
 ハラワタンはつばを吐くと、華奢な黄色い背中を掴んだ。首を掴んで持ち上げて、その腹をシンケンピンクにみせつけてやった。
「まず変化は腹にはじまる……」
「あっ……」
 海老沿りになったシンケンイエローを、徐々にピンクへと近づけていく。その黄色いシンケンスーツで覆われた腹が腰へかけてラインを描いていた。そこが風船へ空気が入っていくようにして膨らみ始めた。
「あっ……」
「シンケンイエローの身体は、やがてぶよぶよに膨んでしまう」
「はぁっ!!」
 ハラワタンはシンケンイエローの背中に自らの腹を重ねた。
「あっ……」
 膨らんだ黄色いスーツが膨らみ、桃色のスーツに触れた時、まるで気絶から目覚めた時のように、シンケンピンクの目が動き始めて、その目の前に広がるものを認識しはじめた。
「えっ……こ、ことは……」
 繰り出される言葉は呆然としていて、シンケンイエローはハラワタンの毒の作用を受けて、腹が膨らみその次に胸が膨らみはじめ、太もも、二の腕を膨ませ始めていた。
「ま、こちゃん……」
 呼ぶ声を受けたシンケンイエローの声は焦りを帯びていた。醜く身体が歪んでいき――更に身体の奥底に疼くものが、その小娘の戸惑いを更に鋭いものにしていく。
「シンケンイエロー、さあ……もう、解っただろう……?」
 首筋越しにハラワタンはシンケンイエローに囁きかけた。その腕で掴んだ胸は溢れんばかりになっていて、まるで豚か牛を連想させた。暖かく柔らかい肉塊はひかりを放ち、脈を打ちながらぷるぷる震えて息づいていた。
「なにが……や……」
 苦しみと戸惑いに息づく声――肉の焼けるような臭いと汗臭さ、ワキガのような動物特有の匂いを濃厚に花開き汗が滴る――それらをシンケンスーツの内側から浮かび上がらせ息を乱しながら、シンケンイエローはかすれた声をあげた。
「オマエが、生き延びるには、誰かにその毒を移さねばならない……」
 ぴくっと動く身体……
「死にたくはない。そう思ったら、シンケンイエロー、オマエはその毒をシンケンピンクに移すんだよ……シンケンピンクは、その毒を誰かに明け渡さなければならない……その時は、今度はオマエが必要とされるだろう……」
 声をあげるハラワタンは、シンケンピンクの刺すような視線を見つめ返し、言葉を続けた。
「さあ、シンケンイエロー……?」
「はぁっ……」
 漏れた息は苦しさを滲ませていて、声の一つ一つに身体をふくらませていく毒の粒子の一つ一つがまとわりついていた。
「卑怯……」
 シンケンピンクの発する声は半信半疑で、力を持っていなかった。彼女がイエローを受け入れることを拒めば、イエローは死ぬ。受け入れれば毒を得て、苦しみを共にすることになる。
 ハラワタンは嘲笑い、シンケンイエローの腹に手を伸ばした。ねっとりとしたさわり心地の肉は柔らかく手が潜りこんでしまう。桃色と黄色のスーツはどこまでも伸縮してフィットしていく。
 ハラワタンは腹を揉みながら、その食感を思い描いた。若い女の脂肪は柔らかく蕩けるようだった。そんな肉は酒に漬け、火であぶり焦げ目をつけて、塩を振るうと溶けるような絶妙な食感を持つはずだった。
 外道から隙間を通じて人間界へ出て、彼は若い女をさらっては心ゆくまで味わった。だが、人間一人から採れる肉の量はあまりに量が少なかった。そうして、ハラワタン体を変化させた。自らの身体は柔らかく、滴るほどにまで自在に変化し、変わることが出来た。
 彼が脂身が好きだった。その桃色に色づいた白身が光沢を発しながら焼ける臭い、舌の上で蕩ける感覚に果物を思わせる微かな甘みーーそれらを体内に作り、人間の女に食べさせることで、その肉質を変化させることができた。
「そんなこと……」
 衝動をまといつかせながら、シンケンイエローは強情だった。彼はふんどしをずりおろすと、二本ある黒いスーツで覆われた腿の間に生殖器をまぐわせた。スカートを掴んではずりあげさせて、そのじっとりとした肉で覆われた股間にその竿を通じさせた。
 ハラワタンの生殖器は人間の何倍ものサイズがあり、それはほとんど少女の脚と同じ太さだった。だから彼はそのじっとりと濡れてぬるぬると滑るシンケンピンクの黒い股に素股した。生殖器はたちまちに勃起して、突き上げるようにしなると、シンケンイエローを持ち上げた。
「ああっ……!」
「へへへへっ、ほらどうしたんだ、いやなら逃げるがいい!」
 馬にまたがるのと同じ格好になって前にうなだれる彼女は、自分の重さで前に倒れそうになって、肩を掴んで引きあげてやった。肩をいきらせてくねらせて悶えるイエローの顔は、桃色に彩られた快楽の渦の中に叩きこまれて涙を流しはじめた。
「いややっ……ああああっ!」
「ことは……もう、もうやめて……」
「やめないことぐらい解ってるんだろう?」
 生殖器は光りを漏らす。
「あああっんんっ! ああぁ……う、うち!」
 それは稲妻のようにもプラズマのようにも見えた。濡れたシンケンイエローの身体にねばつく光りがまといつき――やがて全てが股間の中へ吸い込まれていく。生殖器は、人間にとっては更なる毒を送り込む作用を秘めている。
「あんあんっ……ああっ!!」
「ことはっ!!」
「さあ、シンケンイエロー?」
 ハラワタンは、シンケンイエローを地面に引き戻して、つま先立ちにさせると、その肩を小突いてやった。
「はへっぁ……」
「苦しいだろう? 痛いだろう? 気持ち悪いだろう。それらは全てシンケンピンクに口づけをすることで解決するのだよ……」
 背筋を伸ばしてひくひくと蠢きながら彼の生殖器にまたがる黄色い身体ーー
「はぁっ……んんっ……」
 だが、その快楽から逃れられる女などいないーーハラワタンは知っていた。だから、生殖器に跨らせたまま、伸びた背筋を押し出して、シンケンピンクの前につきだしてやった。白石茉子の顔は歪んでいた。崩れたシンケンイエローの顔に、嫌悪感を隠すこともしない。
「さあ、シンケンイエロー、口づけを……」
 いま、花織ことはの身体はどろどろに溶けて、その口の中にはハラワタンの腕が溶けながら煮え立っている。その白く濁って溶けた肉は口づけとともに白石茉子の胎内に注ぎ込まれていく。
「いやっ……いやあぁぁぁぁぁああああああああああ!」
 白石茉子の悲鳴が終わった時、涙を浮かべた彼女の顔がそこにあり、ことははゆっくりと唇を重ねた。そうして、長い長い口づけがはじまり、どくどくと音が流れた。
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