夜と水槽

「まてーっーーーー!」
 細身のシルエットが月光を浴びて、光沢の陰を落としている。
「へへぇーん!」振り返ったフラビージョがあっかんべぇーをしてスキップするように走っていく。シノビスーツに身を包んだ七海がそのすぐあとに続いた。その距離は徐々に狭まっていた。ビルを屋上から屋上へと飛び移っていく。あともうすぐ、もうすぐ追いつく。焦燥の思いで七海は影を見つめた。
「待てったら、待ってー!」
「ばかじゃーん、待つわけ無いじゃーん」
 月が走っていく方角の真上に見える。羽を巧みに使ってフラビージョがめちゃくちゃに飛んでいく。先を見ずに十階ぐらいのビルを飛び越えると、その先が背の低いデパートで自由落下をした七海が軽い音を立てて、屋上に降り立った。
「痛っ!」
 高低さのある場所から下りたショックで、足がじんと痛い。七海はそのブーツに一瞬目をやり顔をあげる。フラビージョが木々の向こうに消えていく。綺麗に選定された木々が宮殿風に並んでいた。
「このぉー!」
 木々の向こうに五メートルほどの高さの観覧車が沈黙の中で浮かび上がっていた。植物園を抜けると、百円で動くパンダやライオンや新幹線が並んでいる。反対側まで来ると手すりにもたげて先を見た。二十階建て位のビルが壁のように並んでいる。空忍の鷹介ならまだしも、フラビージョがこの壁を越えるとは思えない。ということは、近くにいる。気配を感じてハヤテ丸を抜いて後ろを向く。
「誰?」
 邪悪な気配が生暖かい風とともに流れてくるが、その姿は見えない。見えるものに騙されてはだめ。ハヤテ丸の刃先が月光を受けていた。車やスペースシャトルの遊具や売店や机が乱立していた。死角が多すぎた。気配だけが沢山しているが、何も見えない。
「フラビージョ、隠れても無駄よ。いるのは解ってるんだから!」
 ハリケンブルーは虱潰しに遊具の間を抜けると、奥へと進んだ。そこはコンサートをやるための舞台と簡易用のベンチが置いてあった。いつも演歌歌手の七海が営業するのもこんな舞台だった。
「どこっなぁーのー!」
 返事は無い。クラクションやブレーキの音が遠くで聞こえていた。風の音が羽音を大きくしていた。軽やかな身のこなしで七海が舞台にあがると、その場所からあたりを見回した。月とオフィスの明かりだけで、なんとなく輪郭だけが見えていた。
 舞台は十メートルほどの幅でコの字型に作られていた。コの中心に来ると、その異様な気配に気持ち悪さがこみ上げてきた。
「フラビージョッ!!」
 舞台の袖に後姿が消えるのを見て、七海は思わず走り出した。袖に迫り、その舞台が光を受けた。その瞬間、ハリケンブルーの身体が何かにぶつかってしたたかマスクを打ちつけた。
「え、っええっ!」
 舞台裏から発動機の音がして、同時に頭上と脇に設置されたスポットが光を放つ。ベンチの並ぶ客席に、ぼっと浮かび上がるようにして多数の人々が姿を現した。誰も生気がなく、虚ろな目で舞台を見ていた。そして、その舞台の上で背中を丸めて、空気にぶつかったハリケンブルーは滑稽な姿でたっていた。
「おばかな、青い子豚ちゃん」
「ウェンディーヌ!」
 反対側から現われたウェンディーヌが空気を掴むと、その空気がぎーっと音を立てて閉じた。空気だと思っていたのは透明の板でハリケンブルーが今ぶつかったのは透明な板だった。スポットライトの角度が変わり、今七海のいる空間が水槽のような状態になっているのがわかった。
「へへぇーん、ばかじゃーん、ハリケンブルー」
 フラビージョが袖から顔を出すと、余裕しゃくしゃくな足取りで水槽の脇に寄った。
「ちょっとこれはなんなのよ! フラビージョ!」
「これはねぇ、手品ボックスだから」
「手品ボックス?」
「そー、ハリケンブルーを捕まえるために作った手品ボックス。色々な手品ができるよー」
「わけわかんないこと言ったって無駄なんだからね!」
 ハヤテ丸でその透明板の壁へとハリケンブルーが切りかかった……はずだった。壁はハヤテ丸の刃をなんなく受け止めると、かすり傷つかずにそこに立っている。
「なんで!」
「そんなことしても無駄無駄」
 ウェンディーヌが笑っている。ハリケンブルーが更に切りかかるが、壁はびくともしない。数分して七海が軽く息を切らしていると、ギターやドラムの音楽がスピーカーから流れはじめた。
「何が目的なの!?」
「さあねー」
「そうだ……」
 七海はとっさに思いついて、ソニックメガホンを取り出し構えた。壊せないなら、フラビージョたちに壊させるだけだ。
「無駄だからー」
「ぐるぐるまわれぇー! ぐるぐるまわれぇー!」
 ソニックメガホンを通じて声が響いた。ところが二人はなんともない。メガホンを通じた音波に空気が震えている。その震えは板の立方体の中を広がり、七海は身体が何かに引っ張られているような感じを覚えた。
「え……うそ…いっやぁーーーーー!」
 その瞬間だった。ハリケンブルーの身体が右足を中心にゆっくりと動き出し、たちまちに速度をあげていく。ソニックメガホンが手から飛び出し、何故か壁を抜けて舞台の上を転がる。回転しつづけるうちに喉の中を何かがぐっとこみ上げる。
「ばーか、この部屋の中でそんな攻撃通じるわけ無いじゃなーい」
 フラビージョは落ちているソニックメガホンを拾い上げると、ゆっくり構えてハリケンブルーに向けた。回転が終り、地面に突っ伏した七海の視線の向こうのソニックメガホンが置かれていた。
「……」
「ぐるぐるまわれーぇ!」
 今度はハリケンブルーが地面を海苔に巻かれる海苔巻のように回転をはじめた。反射神経が解きほぐされた糸のようになってしまう。
「ああっーあっー」

 そのとき、マゲラッパと宇宙忍者を倒したハリケンレッドとハリケンイエローは、フラビージョを追って走っていたハリケンブルーを追っていた。
「ったく、どこまで行ったんだよ、七海!」
 空忍の鷹介は身のこなし軽く、陸忍の吼太も大して無理なくビル群を越えていった。オフィス街を越え、繁華街に至ると二人は異様な妖気を感じて、無意識的に右へとカーブした。繁華街の終りに高層ビルに囲まれるように立っている古いデパートが立っていた。
「あれは!」
 イエローが声をあげる。明かりの落ちたデパートの大きな建物の中で、屋上の舞台のすえつけられたあたりだけ、煌々と明かりが灯り、その舞台の上に青いコスチュームの七海の姿が見えた。
「待て」
 隣の雑居ビルで不意にレッドはイエローを制して、足を止めた。
「なんだよ、鷹介!」
「なんかおかしいぜ」
 そういわれて、イエローは舞台のほうに目を転じた。亡霊のような面影の人の影が客席に並び、舞台の上の七海の周りを透明な立方体が光を受けていた。フラビージョとウェンディーヌが両袖に立っている。
 二人は目で合図すると、ハヤテ丸を鞘から抜いた。

「みっけたー! あまーい!」
 怒る七海を手懐けるように他愛もない返答を返していたフラビージョは、不意に客席の向こうに視線をやると、自由落下してこちらへ迫ってくるハリケンレッドとイエローに向かって、口から何かを吹いた。
「鷹介! 吼太! 助けにきてくれたのね!」
「七海、今助けにきたぞ!」
「やい、ジャカンジャ、よくも七海をこんな目に合わせたな!」
 フラビージョの何かに反して、七海の前に降り立った二人は颯爽としていた。七海の心に安堵の思いが広がっていく。これで助かる。幸いこの二人に捕らえられた以外には、ソニックメガホンでぐるぐるされただけだ。
「この娘より、おばかよねえ……」ウェンディーヌは一部始終を観察しながらくすりと笑う。
「なんだと!」
「フラビージョ、覚悟しろ!」
 レッドがハヤテ丸をフラビージョに向けてかざし、イエローがウェンディーヌへ向けて走っていく。二人の鍛えられた無駄の無い動き、しかし、二人の宙忍はまるで社交ダンスでも踊るようにそれを回避する。
「ばっかねー、それで戦ってるつもり?」
「うるせー」
「つもり?」
「フラビー……」
 不意にハリケンレッドの声が止む。七海はその後ろ姿を見ていた。ビデオを一時停止したように身体が止まった。
「鷹介!」悪い予感を感じて、後ろを振り返ると吼太も同じように動きを止めている。
「そろそろきいてきたわねー」
 フラビージョが笑うと、手を上にあげ下ろした。戦闘態勢のレッドとイエローの手からハヤテ丸がこぼれ、二人が背筋を伸ばしてその場で直立する。
「鷹介! 吼太! しっかりして!」しかし七海には二人に声をかけることしか出来なかった。「二人とも!」
 フラビージョが手招きをして、二人がその前へ立つと、その手がハリケンブルーを指さし、二人が無言で七海のほうを向いた。七海がなんども二人の名を呼んでも、反応する様子がない。
「鷹介! 吼太!」
「無駄無駄ーあたしの宇宙忍法うるるんハートを受けたら、ハリケンジャ―なんてイチコロイチコロ」
「駄目、二人とも来ないでぇ!」
 フラビージョは二人に耳打ちをする。無言で頷く二人が歩き出し、その透明な空間に侵入してきた。ハリケンブルーを圧するようなヒーロー達の陰だった。危機を感じた七海はとっさに両手を交差し、後ろへ下がる。後ろといっても、すぐに壁にぶちあたる。無表情なハリケンブルーのマスクの中で、困惑を隠しきれない七海の表情があり、涙を湛えていた。
「七海、みんなの前だぞ」
「ううっ!」
「七海、大人しくするんだ」
 イエローがハリケンブルーの腹部を打ちつけ、身体が二つに折れた瞬間にレッドがそのマスクを上から掴み、無理やりブルーのフェイスガードをオープンにさせた。音を立て現われた顔が汗に濡れており、その顔が壁に押し付けられ、歪んだ顔が透明な板を通じて、観客の前に晒される。
 濡れた目の前にいる観客はいつもの彼女の守ってきた人々とは違い、邪悪な色を湛えている。この先どうなるのだろう。七海の頬を瞳に湛えた涙がこぼれ始めた。その涙に合わせて、野太い歓声が夜の屋上に流れた。
 そんな涙などお構いなしに会場は進行していた。傷ついた自尊心から項垂れた七海をレッドが掴んで地面にねじ伏せた。イエローがばたつくブーツを掴み、スカートをめくりあげる。
「七海ー、シノビスーツにパンティーつけるのなんて、やめようぜ!」
「俺たち、こんなパンティーつけてちゃいけないと思うんだ。だって、伝説の勇者だもんなあぁ!」
 その声に歓声が返ってくる。フェイスガードがオープンし、欲望にぎらつかせた吼太がそのハリケンブルーのスカートの内側にある鮮やかな青のパンティーを脱がすと、よく引き締まった七海の太腿から抜き去った。立ち上がり、そのぺらぺらの布きれを振って見せると、観客の歓声はどんどん高まっていく。
 出し抜けにイエローがその青の布切れを客席に放り投げた。それをめぐって軽い争いが起こり、そのやり取りを呆然と七海は見つめていた。結局一人の男がそれを手にし、内側をめくると、鼻に近づけた。
「やめてぇーーーー!」
 スーツの一部とはいえ、下着を奪われて臭いをかがれてはたまらなかった。七海は脚をばたばたさせたが、レッドはがっちりと身体を捕まえており、動く余地はあっても逃げる余地はない。
「なかなかいいムードになってきたじゃない?」
「うんうん、いい感じいい感じ!」
 フラビージョとウェンディーヌはハリケンジャ―の三人の繰り出す醜態を止めるわけでもなく加勢するわけでもなく眺めていた。レッドがブルーの腋に腕を通して、観客に見せるように立たせると、そのスカートを再びたくし上げて、その網タイツの縫い目を見せた。
「いやぁー二人ともーもうやめてーー元に戻ってぇー!」
「今日はハリケンブルーの秘密を良い子のみんなに大公開だ」
 イエローはブルーの前に立つと大声をあげた。
「暴れるなよ、七海」
 レッドのいなす声に顔を真っ赤にして、七海が反抗する。イエローはその網状の腕の部分から手を伸ばすと、スーツの裏側へ手を伸ばした。
「ハリケンブルーのスーツはインナーとアウターの二つから形成されてるんだ」
 その手が胸を掴むと、大きく引き絞った。元からそれなりの大きさを作っていた七海の右胸が水風船のように膨張し、その表面を丘から山に変えた。
「よくみてろよー」
 レッドの声に、イエローが反対側の腕で乳房を掴み捻り搾り上げる。
「あくゥ! ちょっとどこ触ってんのよ!」
 その決して巧みとはいえない指だったが、その指に揉み扱かれ、徐々に反応をはじめた七海の乳房がそのスーツの表面に隠し様のない凸部分を作り出した。
「ハリケンブルーは強い女の子だからな!」
 レッドが宣言するような声で言う。
「ちょっと、ちょっと、もうやめてったら……二人とも……」
 真っ赤な顔が反抗しながら、徐々にピンク色へ変わっていく。いくら身体を揺さぶっても、男と女の生まれもった体格の差から、逃げることは容易ではなく、その上イエローの与える刺激があった。快感こそ覚えることは無かったものの、身体のむず痒いような感じは抑えられるものではなく、身体に思い通りに力を入れることが出来なかった。
「二人ともぉ……しっかり……しっかり……」
「七海、お前がしっかりしろよ!」イエローの声に観客が罵声を浴びせ掛ける。
「しっかり……ああ、吼太、もうやめて、感じちゃうよ」
「へぇー、ブルーって淫乱だったんだ」
「へぇーへぇーへぇー」フラビージョとウェンディーヌが言い合っているが、七海の耳にはもはやそんな言葉入らなかった。
 七海は痺れるようなむず痒いような感じがどうしようも身体を麻痺させて、そのうちに否定しがたいことに、言い知れぬ感じを抱くようになっていた。七海は観客から顔をそむけ、下へと視線を落とすと、その惨劇が終わるのを唇を噛んで待ち続けた。
「あぁ……はっぁ……ふっぁ…………」
 その待ち続けた口元から時折、甘い息が漏れ出した。目をゆるく閉じ七海は我慢した。何時の間にか、イエローはスーツの中に両手とも入れて、大きくなった乳房をゆっくり転がすようにしている。
 インナーがじとっと濡れ、その時間は二時間にも三時間にも感じられた。
「はっ……ふぁ…………ぁ、終わった」
 ずるずるとイエローの腕がスーツから抜かれ、呼吸が楽になり、視野が広がる。七海はゆっくりと目を開け、イエローの姿を見た。自らの股間を握り締めたイエローがいた。そういえば、後ろから彼女を押さえつけるレッドの股間の存在が大きく感じられた。
「う、うそ、だよね……?」
「うそなわけないじゃーん」と、フラビージョ。
「七海、やらせろ……」
「うそだよね、吼太……」
 それが嘘であると信じたいという風に七海は洗脳された仲間へ問い掛けた。
「やらせてやれよ」鷹介の声に観客からブーイングがあがる。
「ああもう我慢できねぇ! 鷹介! 七海を押し倒してくれ!」
「よっしゃあ!」
「うそぉーーー!」
 スーツの上に吼太の生殖器が浮き出ている。七海は地面へ押し倒され、その前へ顔を押し出されて、その姿を見ていた。
「さあ、舐めろよ……」
 七海はそのスーツの突起か三十センチほどのところに頭を置いていた。無言で見つめながら、観客の声は次第に高まりを見せていく。
「舐めろよ! くのいちだろ!」
 吼太の怒った声に七海は思わず目を閉じた。そして目をあけると、口の間から細い舌を伸ばし、おもむろにスーツを下から上へ舐めた。吼太の唸りを七海は無視した。
「おおおぁっ……」
 そのスーツの先端にあたる部分は既に濡れており、唾液を介してもそれが解った。七海はもう何がなんだか解らなくなっていた。深夜のデパートの屋上で仲間のものを舐めている。しかも、敵の目の前で。
「もう……」
 そのとき自由になっていた右手をレッドが掴み、その股間をつかませた。スーツの上からでも解りすぎるほどの自己主張だ。涙をのんで七海は頷いた。敗北することなどしたくは無かったが、今はもうどうしようもなかった。プロテクターのついた手で、レッドのものを掴み、ゆっくり扱き始めると、イエローと同じように彼も雄たけびを口にした。
「いいぞぉ……もっとだっ…・・・ななみぃ」
「二人とも……」
 七海の身体は先ほどの愛撫に思ったような身体のキレを発揮することが出来ない。散漫な身体の動きがまるで糸の切れたマリオネットのように動き、ゆっくりとレッドを手扱き、イエローにしゃぶった。

「はあはあ……なかなかだぜ、七海……」
 レッドとイエローはお互いに七海などそっちのけて息をついている。その股間に濃い色の染みが出来ている。二人をイかせた七海は身じろぎもせずその場に倒れている。手に覚えた男性器の感覚がありえないほどに不可解で不潔だった。
 その不潔さに耐え切れず、解放されてからも動くことが出来なかった。もっとも彼女のいるのは透明の檻の中であり、二人の敵が常にその様子を見守っている。
「鷹介、吼太……」
「いやぁ、良かったぜ! 七海」
「さすが、おれたちのくのいちだぜ! しゃれになんねぇよな」
「じゃあ、今度はこれを会場の皆さんにやってあげなきゃ」
「え?」
「え、じゃねえよ、今日はハリケンジャ―ショーなんだぜ。握手会ならぬ、イカセ会を開こうっていうんだよ。ハリケンブルーが百人の男をイかせるイベントだよ、なかなかいいだろ?」
「なにいってんのよ、二人とも」
「あーあ、七海信じてねぇな」
「信じるも何も……」観客席を見て七海は愕然とした。そう、捕まる前から感じていた異様な空気、そこにいる男たちが立ち上らせているオーラ、それは性欲の他にならず、七海は目の前で脂ぎって漲る性欲の渦に軽い昏倒を起した。
「気絶しちまいやがった。まあいいや、そのうちに用意しとこうぜ。な、フラビージョ」
「うん!」
「めえぇぇ……」

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