超力を巡る戦い!

 国際空軍特別部隊オーレンジャー所属の二条樹里と丸尾桃両中尉は、当直のため、コンピューターコンソールに向かっていた。三人の仲間は地上をパトロール中であり、今、この司令室に詰めているのは、当直の二人と、司令官の三浦参謀長のみであった。参謀長は中央のブリーフィングデスクに座り、ラップトップ型コンピューターへ入力作業を行っていた。
 樹里と桃の二人は、地球防衛早期警戒システムをチェックしていた。と、樹里の眺めていたレーダーディスプレイ中央に、突然五つの赤い光点が現れた。コンピューターが自動的に処理を開始する。
「大気圏外からエリア22に侵入物体!」
 樹里が報告し、部屋の中央上にある赤色灯が輝き、けたたましい音を立て始める。黒い将官服の三浦参謀長は、立ち上がって、一段上になっているコンソールまで歩いてきた。桃もヘッドセットを外し、樹里の背後にくる。樹里は緊迫した顔で、コンピューターに向かい直す。赤い光点群の下側に、自動識別:バラノイア帝国軍戦闘機、数:5と、表示されている。
「よし樹里、桃、迎撃機でスクランブル発進だ」
「了解!」

 サンダーウイング戦闘機は、国際空軍の主力戦闘機サンダーウイング発展型で、バラノイア帝国軍の戦闘兵器を撃破するために開発された。三浦参謀長開発の「超力砲」を搭載し、空戦性能を飛躍的に向上させている。オーレンジャーロボが開発されて以来、第一線での使用は少なくなっているものの、バラノイア帝国軍に対する兵器としては、特A級の性能を持っている。
 高山の万年雪がつもる山肌が開く、特別部隊オーレンジャーの秘密基地が万年雪の中から突如として顔を出した。その中でサンダーウイング戦闘機が発進準備を整えていた。樹里と桃が乗り込み、酸素マスクをきつく締めていた。後部座席の桃がレーダーをオンにして、兵装をチェックする。カタパルト発進の準備が整えられ、着艦フックにブライダルケーブルが接続される。発進ポジションに戦闘機が移動され、滑走路の横にいる発艦士官が手を挙げて、操縦席の二人に発進準備が整えたことを示す。
「管制所、発進します!」
 樹里は同じように手を挙げて答えを返す。スロットルをアウターバーナーポジションにあげると、ぐぐもった音が響き出す。尾部にある二基の高推力エンジンが青い炎を発し始める。そして発艦士官が地面にあるボタンを操作すると蒸気カタパルトが作動し、サンダーウイング戦闘機は基地から跳ね出されていった。
 バラノイア帝国軍のオクトパス型戦闘機は、大気圏外からエリア22空域に侵入すると、V字型編隊を維持したまま、最短距離で東京上空に達し、迫撃砲のような武器を用いて、超低空を飛行をしながら空爆を開始した。ゴォォという衝撃波を轟かせながら、ルートにある沢山の建物を破壊し、新宿の歌舞伎町上空で編隊を修正しながら鋭角で上昇していくと、新宿駅を跨いで、西新宿にある超高層ビル群への急降下爆撃を実行した。超高層ビル群は瞬時に破壊された。そして東進を続け、まもなく山岳地帯に突入した。
 樹里と桃は、そこで五機の敵機への迎撃を開始した。一機の超高性能戦闘機はあっという間に四機を片づけた。そして五機目は見失ったかと思うと、突然後ろに現れた。桃が敵機後方叫ぶのが早いか遅いか、敵機の攻撃を受けた。操縦能力を奪われ、落下するサンダーウイングから、樹里と桃は、即座にペイルアウトした。床が開き、超高性能バイク、イエロージェッターとピンクジェッターに跨り、二人は機へ飛び出た。
 樹里と桃は落下していくサンダーウイングと共に併走するように滑空したが、まもなく戦闘機にも負けないエンジンが二人を地面へと誘った。木々の間に飛び降り、黄色とピンク色に塗装されたバイクは一回バウンドし、草木をなぎ倒しながら、緩やかな上り坂を上っていった。そこへ突然、視界が開けて、断崖が現れた。樹里は寸前で紫色の煙を巻きながら、左へ逸れたが、桃はハンドルを取られて、崖から空中に投げ出された。
「桃!」
 崖の上で停止した黄色のバイクに跨る樹里が、叫んだが、桃の姿は樹海に阻まれ見えることはなかった。と、桃が落ちたと思われる辺りのすぐ先で、ジェット戦闘機が地面と接触した。それからすぐ、樹里の頭上をバラノイア帝国軍のオクトパス型戦闘機が過ぎってそこへ飛んでいった。

 飛行用ヘルメットを被ったまま、桃は微睡んでいた。ピンクジェッターは拉げて木々に引っかかっていた。桃は地面に投げ出されていた。かなり高い高度から投げ出されたものの、超力というパワーに守られて、桃が死ぬことはなかった。多少痛みがしたが、それも超力の作用手間もなく、傷跡もなく完治するだろう。桃の意識はとぎれとぎれだった。今、敵に襲われたら、おそらく身体を槍でひと突きだろう。戦闘できるまで快復するには、まだ十分は掛かるだろう。仰向けの桃は、地面の泥を被った口を小さく開き、時々、低い声で呻いていた。どれだけの時が過ぎたのかは、まったくわからなかった。
 そのときがさごそという音が桃の耳に飛び込んでいた。草をかき分ける音。それに混じって金属がぶつかり合う音もした。
「だ、だれなの?」
 掠れるような声で桃は音にきいた。音の数はそう多くない。しかしだいぶ近づいてくる。もう一度声を発しようとすると、喉の奥から突き刺すような痛みが現れて、声にならなくて、桃の瞳から涙がこぼれてしまった。
 動けない、桃は悲しくなった。全身が腫れ上がるように熱い。しかしおそらくの敵はすぐそばまで迫っている。超力の効用により、すぐに恢復するだろうが、いま迫っている音には間に合いそうになかった。
「桃?」
 声がした。桃と同じネイビーブルーの軍服に、黒い飛行用ヘルメット、それには中央にオレンジのラインが引かれ、白い文字でUAOHと書かれている。その背後にイエロージェッターのものらしいヘッドライトが覗いていた。
「樹里!」
 相手はヘルメットのサンバイザーをあげた。そこには二条樹里の顔があった。彼女は前屈みで桃を覗く。涙がこぼれそうになって、彼女に抱きついた。泣かないの。とか、そんな言葉を樹里は呟き、ヘルメットを外し、桃のものも外した。
「桃、大丈夫・・・・・・?」
 低い声で桃が頷いた。と、途端に身体の痛みが少しずつ引き始めた。超力の作用によるものらしいが、身体を固定する器械のロックが外れているようだった。
「うん」
「立てる?」
「なんとかね・・・」
 腕を地面につき、桃は起きあがろうとする。まだ所々痛みがしたが、歯を食いしばった。
「樹里は大丈夫だったの」
「もちろん。大丈夫よ。それより歩けるでしょうね」
「なんとかなる」
「大変なことになったわ」

 樹里は獣道まで桃を連れていき、イエロージェッターの後ろに桃を乗せた。その頃にはすっかり桃の痛みは消えていた。樹里は彼女に現状を伝えた。超力砲を積んだサンダーウイング戦闘機が二マイル先に墜落していて、バラノイアの兵はそこへ集結しているらしかった。
 超力砲は、六億年前の古代文明のパワーからオーレンジャーを作ったように、超力が使われている。戦闘服に用いている超力と同じものを、その砲に使っている。つまり、もしバラノイアにサンダーウイング戦闘機の機体が回収すれば、当然超力砲は敵の手に渡る。もしそうなれば、超力のメカニズムが明らかになってしまい、オーレンジャーは裸にされたも同じになる。
「嘘!」
 桃は話を聞いて、声を上げた。そんなことになっては、バラノイア帝国に地球が占領されてしまう。オーレンジャーは地球防衛の唯一の切り札であり、それが無力化してしまえば、後は何も残らない。
「だから、三浦参謀長から戦闘機を守れって命令が出たわ」樹里は桃を乗せたバイクを手で引いた。あまりに土壌が悪く、高機動力を有するイエロージェッターでさえ、ハンドルを取られてしまうのだ。「隊長達が来るまでね。――桃、そろそろ戦える? さっきから気配を感じてるでしょ?」
 キュラキュラキュラと戦車のキャタピラーのような音が響いて、頭を上げると、密林の間から、いつ現れたのか円筒状のバラノイア強襲船が浮かんでいた。そして細い煙の上がる場所へ、一条の光を放ち、大量のバーロ兵を降下させた。

 イエロージェッターを草地に隠して、樹里と桃はオーレンジャーのレーザー銃キングブラスターを構え、低姿勢でサンダーウイングの墜落現場に近づいた。辺りをバーロ兵が警備していたが、一流の軍人である二人はそれを避けて、間近まで近づくことは容易だった。
「いい?」樹里が囁いた。すぐ目の前にサンダーウイングの垂直尾翼が見える。二つに折れた機体の上にアチャとコチャが立って、バーロ兵を指揮している。「アチャをキングブラスターで倒して、私がバーロ兵を引きつけるから、あんたは機首の超力砲まで走っていって、草むらかどっかに隠して」
「分かったわ」
 桃の目は少し斜めのタケノコのように地面から出ているサンダーウイングの機首を捕らえていた。その先端下側にある黒いものが、超力砲だ。その時、アチャが間の抜けた声で「オーレンジャーは逃げたようですね」と言い、「逃げちゃったね」とコチャが相づちを打つ。
 「行くわ! 桃、ちゃんと守りなさいよ。地球の未来はわたしたちに掛かってるわ」
 樹里は桃の瞳を見て、前方を向き直った。キングブラスターを構えて、その草の音に気づいたアチャに向けて発射した。レーザーはアチャの腹部に命中し、火花があがった。相手が倒れる前に樹里はコチャも射止めて、それに気づいたバーロ兵達に撃っていった。瞬く間に距離が縮まり、樹里は格闘戦にもつれ込んでいった。
 桃はタイミングを計り、チーターのように駆けだした。数基のバーロ兵が気づき、桃へ頭部のレーザーを発射したが外れて、桃は機首の影に身を潜めることに成功した。超力砲は超力が使用されているため、滅多なことでは破壊されない。キングブラスターを照射しても、それは同じ事だった。桃はまず、落ち着いて、留め具を外しに掛かった。
「何たることですか!」
 アチャが起きあがって叫んだ。桃はその声にどきりとした。コチャが「なんて事だ」と相づちを打つ。
「バーロ兵さっさとオーイエローを始末しろ」
「始末しちゃいなさい」
 幸い無能な指揮官は死角にいる桃には、気づいていない。桃に気づいていたバーロ兵は、命令されて、桃から樹里の方へ向かった。二十基近いバーロ兵が樹里に迫っているが、工兵用なのか、そう強くはなさそうだった。桃ははっとして、黒い巨大な火器に意識を戻した。と、超力砲は外れた。彼女の超力の能力を用いれば、だいぶ重いその火器もそう重くはない。すぐに草むらに向けて放った。
 そうだ。これを使えば、今の所はバラノイアを粉砕できる。
 ドカッ!
「きゃっ!」
 突然、桃は左肩を冷たく巨大な金属が掴まれて、なぎ倒された。ちょうどそこに突き立っていたカナード翼にぶつかる。キングブラスターが手から離れて、数メートル先にあった。
「バラバルカン!」アチャが振り向いて、声を上げる。そして桃の姿を確認する。「なんたることだ! 鼠が一匹ならず二匹までも!」
「二匹までも!」
 桃が顔を上げると、バラバルカンと呼ばれたマシン獣が居た。両手が機関銃になって、腹部の真ん中まで機関銃、しかしマシン獣にしては意外とスマートな形をしている。そいつが桃に右手の機関銃を突きつけ、アチャを見つめていた。
「アチャ様、命令を」
「桃!」
 樹里が叫ぶ。倒しても倒してもきりがないバーロ兵に殺到されて、その対処だけに手一杯だ。桃はカナード翼にもたれ、銃身を脅えた目で見つめていた。このままでは殺される。と、とっさに考えて、右手のパワーブレスを天に掲げる。
「超力変身!」
 桃はパワーブレスを胸の前まで戻し、左手のブレストリンクさせた。チェレンコフ光に近いような光りが起きて、超力の源、ストレージクリスタルが発動する。次の瞬間、ピンク色の女戦士オーピンクに丸尾桃は変わり、起きあがった。
「なに!」
 オーピンクは機関銃を足場にして、高くジャンプをする。すぐに事態に気づいたバラバルカンが両手を構えてオーピンクに向けて、機関銃を発射する。その前に彼女専用の盾型の武器を構える。
「サークルディフェンサー!」
 銃弾を全て跳ね返す。桃はまるで鳥にでもなったように、降下する。そしてバラバルカンをもう一度足場にしてジャンプをする。バラバルカンは機関銃の連続発射に足場を整えていたが、蹴りを受けて、後ろに倒れてしまった。桃はそしてキングブラスターを地面から拾い上げる。樹里を見た。樹里はすでによれよれで地面に倒されて、バーロ兵に馬乗りになられていた。
「キングブラスター!」
 桃は樹里に馬乗りになるバーロ兵を射撃すると、彼女の元に舞い降りた。キングブラスターをホルスターに戻して、ファイティングポーズを取ると、あっという間にバーロ兵を片づけた。そして樹里に駆け寄ると、彼女の脚や頬に痣があるものの、すぐに立ち上がった。
「ありがとう。オーピンク」
「いえいえ」

「オーレンジャー! よ、よ、よくもこざかしい真似を」
「真似を!」
 二人が機体の方を見ると、アチャとコチャが少しおどおどしく憤っている。樹里は二人を睨みつけた。
「こざかしい真似はどっちよ! アチャ、コチャ、今日こそあんたらを倒して上げる」
 樹里は指さし、宣言した。その威容にアチャとコチャは躊躇する。
「オーレンジャーめ、生意気な口を!」
「そうだ、生意気だぞ」
「超力変身!」アチャ、コチャの言葉を無視し、樹里はパワーブレスのストレージクリスタルを発動させ、オーイエローに変身する。
「オーイエロー!」きびきびとした動きで樹里はポーズを決める。
「オーピンク!」
「なぬうう。おい、バラバルカン、お前の自慢のその獣で、オーレンジャーを蜂の巣に・・・・・・あら?」
 アチャとコチャは偉そうに言って、バラバルカンの居るべき場所へ振り返った。が、その場所にバラバルカンは居ない。あらあら、と、声を上げて、アチャとコチャは辺りを見回す。桃もその姿がないことに気づいた。
「あいつめ、マシン獣でありながら怖じ気づいたな。くそ!」
「くそ!」
 アチャは地団駄を踏む。樹里がその様子を見て、呆れたような動作を取った。
「仲間に裏切られたようね。お馬鹿さん。さあ行くわよ!」
 樹里と桃が大きく跳躍をする。
「ツインバトン!」
 桃がサークルディフェンサーを構え直し、樹里はヌンチャク型の武器を取り出して、アチャとコチャへ飛びかかった。
「たあ!」
「うわ、うわ、うわぁ!」
 アチャはろくな防御体勢もとれずにオーイエロー、ピンクの攻撃を受けて、数メートル跳ね飛ばされたが、すぐさまよろよろっと立ち上がる。
「よくもやりましたね。とう、これをくらえ!」
 アチャは腕を出し指を伸ばすと、そこから青いレーザーを発射した。レーザーは桃と樹里の近くの地面や遮蔽物に当たり爆発を起こしたが、二人は軽い身のこなしで、攻撃を避けてしまう。
「ええい!」
 桃が腕を伸ばし、身体を一直線にして、アチャへ飛んでいく。ピンク色の光りに包まれて、それはミサイルのようにアチャに命中する。攻撃の好調感が桃を包み込む。
「うわあああ!」
「やぁぁ!」
 次は樹里が両足を揃えて、地面へ倒れたアチャへ飛びかかる。アチャはバラノイア帝国、皇帝バッカスフンドに遣えている名誉ある地位のメカだ。そこらへんのバーロ兵とは一線も二線も格が違うのである。しかし、まるでオーレンジャー、しかも女のイエロー、ピンクのなぶりものと化していた。元々、アチャは戦闘用メカではないのである。
「バトルスティック!」
 アチャがオーイエローの攻撃を受け、俯せに倒れる。と、首もとでオーレンジャーの剣、バトルスティックが十字に重ねられる。アチャが見上げると、オーピンクとオーイエローがそれを構えて、無機質なマスクが降伏を促している。
「アチャ、あなたはもう逃げられないわ」樹里が言う。樹里はスーパーヒロインをしていた。アチャを捕虜として、機能を停止させて、そのデータを三浦参謀長が解析すれば、バラノイア帝国を撃滅させるきっかけが作れる。そう思っていた。
「むむ、くそぉ、オーイエロー、オーピンク! このままで済むと思うなよ」
「ふん、誰に向かって口をきいてるとおもってるの」
 バトルスティックをなおも喉元に突きつけて、桃が言う。
「お、おまえら、卑怯だぞ!」
「どっちが卑怯よ」
 樹里が言う。アチャに諦めるというデータは初めから入力されていなかったが、それに似た考えを記憶バンクの一部が作りかけようとしていた。その時・・・、がさごそっと、草地が音を立てた。アチャ、それに黄色とピンクのオーレンジャーはその側を向いた。と、太陽のような光が輝く。
「ぎゃああああああああああああ!!」
 次の瞬間、樹里と桃は二人まとめて、その草地の「存在」とアチャとを結ぶ直線の先にある100メートルは先の木々まで抉るように跳ね飛ばされた。二人の強化服を着た女性将校は、木々を数本倒して、ようやくそこに出来た小さなクレーターのような場所に墜ちた。
 アチャは何が起こったのか理解できず、光りが起こった後、立ち上がり、きょろきょろ辺りを見回した。光りが現れた場所の草木が再びがさごそ鳴って、また光って、今度はサンダーウイングの残骸を次々に塵に変えていった。うわ、うわうわ、と、アチャはおどおどしている。やがて、木々の中から、スリムなマシン獣が銃口が三〇ミリほどもある巨大な元空対空兵器を携えて現れた。今、彼の腕はごつい金属の腕だったが、マシンガンではなかった。
「バラバルカン!」アチャは姿を認めて、声を上げた。
「な、何してたんだ。僕たち、オーレンジャーにやられる所だったんだぞ」
 コチャがアチャの肩で興奮して言う。「そ、そそ、それに、その迫撃砲みたいなのはなんだ!」
「これは超力砲であります。アチャ様、コチャ様」
「ちょうりきほう? さては!」アチャは焼けただれた倒木の上で倒れるオーイエローとオーピンクを見てから、バラバルカンが破壊したばかりのサンダーウイングの残骸を見回した。「これはどこにあった?」
「は! アチャ様、そこの草むらの中に隠されておりました。オーピンクが先ほど何かやっていたのは、これを隠していたからのようです!」

「あぐぅ・・・ぁぁ・・・・・・」
「あわぁ・・・・・・うぐ・・・」
 焼けただれた植物の臭いと身体中を包み込む痛み、そして気怠さと脱力感、桃は上擦った声で喘いだ。それは樹里も同じで、彼女は黄色い左脚を桃のピンク色の腹に乗せ、ちょうど十字に彼女と重なっていた。
「うう・・・・・・大丈夫? じゅ、樹里?」
 突然のことで何が何だか分からない。樹里も桃も光りが過ぎった後には、この焼けただれた植物の上に倒れていた。身体中を包んだ光りは、強烈すぎるほどのパワーを持っている。
「・・・・・・あんたちゃんと隠しとかないと・・・あぁ」
 樹里は妙に艶めかしい声を上げて、言葉を止めた。桃は彼女が事切れたのでは、と思い、身体をわずかに起こし、這って彼女の顔の近くまで寄った。
「樹里? 樹里? はあはあ・・・・・・」
 桃は二度彼女を呼んでから、肩で息をした。妙な脱力感で身体中から力が抜けていくようだった。
「ごめんね・・・」
「謝るのは・・・・・・勝ってからにしてくれない」
 樹里の声は非常に弱かった。

 バラバルカンは機関銃だった手を細い工具にして、オーイエロー、ピンクがまだ立ち上がらない様子を見ると、アチャに超力砲の解説を始めた。ちょうど中央にコントロールパネルがあり、そこをこじ開くと大量のコードが入っており、基板が並んでいた。バラバルカンは集積回路の間に、ちょうど中央にあるタンブラーほどの大きさのコバルト色をしたパイプを指さした。底が少し膨らんでいる。
「これが超力の能力を引き出すための反応装置です」
「ほう・・・・・・」アチャとコチャはそのきらきら光るパイプを眺めた。
「残念ながら、月面基地に戻らないことには、詳しいシステムも分かりませんし、超力のエネルギーがどこから供給されているか、分からないでしょう。しかし大事なことが一つ分かりました」
「それはなんだ?」
「これは元々、この場所に今入っていたのとは反対の方向ではまっておりました。今の方向にこの反応装置をはめると」そう言って、バラバルカンは装置を元に戻す。「超力を吸収する、反超力砲になるのです。つまり、一時的ですが、超力を無力化できるのです」

「・・・バ、バラノイア・・・・・・」
 樹里の視界には話しをするマシン獣とアチャが見えている。ゆっくりとホルスターからキングブラスターを抜き、左腕を目の前に持ってきて、銃座の変わりにして、銃身に置く。いつもの何倍もけだるく、力のいる作業に思えた。そして重い引き金を引く・・・・・・しかし、ビームは発射されなかった。
「あれ?」
 今までそんなことはなかった。キングブラスターに不良銃などはない。さっきまでは正常に作動し、エネルギーもまだ残っている。
「樹里?」
 桃が声を掛ける。樹里は無機質なマスクの彼女を見た。互いの表情を伺うことは出来ない。しかし厳しい訓練を共にした仲だから、予想は出来た。
「桃、あいつら倒さないと、行くわよ」
「うん」
 樹里と桃は地面に手をついて、立ち上がろうとした。んぐ・・・・・・身体は鉛のように重く、まるで言うことをきいてくれない。樹里は舌打ちして、唇を噛み、何とか立ち上がる。二人とも立ち上がるだけで、肩で息をしていた。何かがおかしい。
 ドカッ!
「うぐ!」
「きゃああ!」
 突然、バラバルカンが超力砲の巨大な銃口で二人のオーレンジャーを横殴りにした。どさっと、二人は力無く倒れてしまう。アチャがバラバルカンの横にいる。
「どうだ、オーレンジャー!」
「どんなもんだい」
 アチャとコチャが言う。オーイエローが顔を上げて、どういうこととでも言いたげに、マシン獣を見た。
「お前らオーイエローとオーピンクは、たった今からこのバラバルカン様の下僕だ。お前らはバラノイアにひれ伏すのだ」
「そんなこと・・・」桃が肩を上下させながら言う。
「無いって言うのか?」バラバルカンは超力砲の銃口を桃に突きつける。彼女は凍り付いたように動けない。
「お前らには、もう戦うことなど出来まい」
「キングブラスター!」
 樹里がバラバルカンの隙を狙って、キングブラスターを発射した。しかし、バラバルカンには全く効いていない。火花がわずかにあがったばかりだった。
「こしゃくな!」超力砲の銃口を桃から樹里に変え、彼女にロックした。この距離から発射すれば、ひとたまりもない。
「とぁぁぁ!」
 その時桃がバラバルカンの足を抱き上げた。オーピンクとしての残存能力を使えるかぎり使い、相手を地面から30センチほど持ち上げると、アチャ、コチャの方へ向けて倒した。
「ウォォォ!」
「うわっ、うわっ」アチャ、コチャは慌てながら、その下敷きになってしまう。桃は肩で息をしながら、よろよろっと立ち上がる。続いて、樹里も弱々しいが立ち上がる。
「糞っ、オーレンジャーめ」
 倒れたままの体勢で超力砲を構える。桃がサークルディヘェンサーを構える。砲から反超力粒子が発射され、それを桃が受け止める。
「くっ! はぁぁ」
 桃が気合いをこめて声を上げる。樹里が彼女と共にサークルディフェンサーに手を掛け、超力を送り込み、桃に加勢する。超力のぶつかり合いだ。
「そこまでだ! オーイエロー、オーピンク」
「あああああああああ!」
 突然、空中から声がしたかと思うと、収束されたエネルギー粒子が二人のマスクに命中した。二人は叫びを上げながら、吹き飛ぶ。サークルディフェンサーは跳ね飛ばされ、二人の胸に反超力粒子がそそぎ込まれる。同時の強力なエネルギーを受けて、イエローもピンクもスーツがボロボロになり、破れて、焦げて、元々の輝きを失った。特に反超力粒子が当たった胸は、スーツが焼けて、コードや極薄センサーが見え、下着代わりで肌を保護するためのインナースーツまでも破けて、肌が見えていた。
「こ、皇太子陛下!」
 アチャは空中から降りてくる一メートルほどの影を認めて叫んだ。皇帝バッカスフンドの息子であり皇太子のブルドンドだ。
「オーレンジャー拷問に立ち会ってこいと、お父上から命令された」

 今度こそ、パワーは無かった。樹里と桃は意識こそあったが、身体中が痺れていた。超力だけでなく、元々の身体能力も相当弱まっていた。ブルドンドが連れてきた四基のバーロ兵が二人の腋に首を入れ、反対側の肩に手を回し、無理やり立たせても、樹里にも桃にも時々弱く苦悶するだけで何もできなかった。
「バーロ兵! 皇太子殿下なのだから、その二人を跪かせなさい」
 アチャが命令する。すると、バーロ兵はブルドンドの前に、イエローとピンクを降ろし、無理やり正座させた。
「よいよい」ブルドンドは今に満足している。樹里も桃も前を見ようとしていない。最期まで反抗している。「オーレンジャーめ。よくもお父上やお母上に反抗ばかりしたな。そんな奴らはこうだ!」
 持っていた金属の扇子で、ブルドンドは二人のマスクを殴った。バシッ、たったそれだけで、マスクにヒビが入る。しかし、樹里も桃も死んだように反応しない。
「まあいい。おい、こいつらを縛って、そこの枝からつり上げろ!」
 命令されたバーロ兵はロープで素早く二人を亀甲縛りにすると、つり上げた。
「おい、オーレンジャー。今からお前らの拷問を始める。この映像は後で世界中にばらまいてやる、優しく思え」
 バーロ兵がベータハンディカムを構えた。すぐにレンズの上の発光ダイオートが赤く輝いて、撮影開始が解る。
 「オーイエロー、オーピンク公開拷問」
 コチャがタイトルを紙に書いて、ハンディカムの前にかざした。アチャはマイクを持っている。全員が突然静止して、桃は異様な静寂に顔を上げようとした。
「5、4,3,2,1――撮影スタート」
 ぷっ、樹里が俯いたまま、笑った。敗北に対するやけっぱち、という感じがこめられている。
「えー、おっほん。これより、バラノイア皇太子ブルドンド様によるオーレンジャー公開拷問を開始します」
 バーロ兵がオーイエローとオーピンクが亀甲縛りで吊されている姿をアップにした。バラバルカンが超力砲を降ろし、小型レーザーガンを二人のマスクに狙いを定めて、照射すると、マスクが弾けて、樹里と桃の素顔が映し出される。
 ピシャ! 
「きゃっあああ!」
 風を切る音がして、桃の躰に激痛が走り、顔が苦痛に歪んだ。ブルドンドがいつの間にか、鞭を持ち、それをピンク色のスーツに放ったのだ。スーツはいつも簡単に破れ、青白いスパークを弱々しく発した。
「オーイエロー!」
「きゃあ!」
 ブルドンドが呼ぶと、樹里に二回鞭を放つ。スーツに十字の傷が付く。樹里には疼くような痛みがして、それを必死に歯で食いしばったが、声は漏れてしまった。
「お前らを殺す前にまず、お前らの超力の秘密を教えるんだ。オーイエロー」
 ブルドンドは言う。公開処刑と言っても、すぐに銃殺するわけではないらしい。
「誰が? あなたたちなんかに秘密をばらすほどオーレン……きゃっ!」
「立場をわきまえてものを言いなさい」
 三つ目の傷が痣になる。
「お前はオーレンジャーの秘密を言う気はないのか?」
 「……」樹里は目をつぶり、俯いた。秘密をばらすくらいならば、なぶり殺されるだけの勇気は持っている。そういう意志表示だった。ブルドンドはそれがまるで、解っていたように、ふふん、と微笑み、躰のギミックを作動させる。
「ならば……こうだ!」
「きゃぁ! あぁぅ! あああ! ……」
「桃!」樹里は顔を上げて叫んだ。鞭で撃たれているのは、オーピンクだった。彼女は何度も躰を打たれながら、奇声を上げて苦しんでいる。その声が何とも苦しげで、無惨だった。瞬く間にオーピンクのスーツがボロボロになり、既に動作を停止した、内側の極薄基板や色とりどりのコード、体力増強回路やセンサーがめためたに破壊され、そのうちに、白い、彼女の皮膚までむき出しにされ始めた。
 樹里は目の前の仲間の姿を見て、やめて! と叫んだ。にかっとしたように見えて、ブルドンドが手を休め、樹里を見つめる。
「じゃあオーレンジャーの秘密を言うんだな」
「うっ…」
「きゃぁ! いやぁ! あああぁぁ!」
 樹里が返答に戸惑うと、全く躊躇無くむち打ちを始める。機械らしくそこはあまりに冷酷だった。
 マスクは既に破壊されているから、バーロ兵が持つハンディカムのレンズには、苦悶する桃が映っている。のけぞり、安静な顔を歪めて、涙がほとばしり、ああっ! と、黄色い声で泣き叫んでいる。
「やめてぇ!」
 樹里は叫ぶ。
「ならば、早く言え」
 ブルドンドは手を休めない。躰から鞭を持つ腕のみが分離されて居るかのような動きだった。
「とにかくまずやめて!」
「とにかくまずやめるなら、お前は超力の秘密を言うのか?」
「言わないなら、こうだあ!」
 ビシシシィィィ! これまでより一層大きな音が風を切り裂いて、桃の身体が血を吐いた。奇声が届いて、オーピンクは事切れた。だらりとなり、力無く吊されていた。
「言わないから、オーピンクが気絶したじゃないか。オーイエロー」
「……知らないわ。超力の秘密なんて。参謀長しか知らないの」
 樹里は呟いた。地面を見ていた。緑の草が芽吹いていた。
「知らないことは、知っていることより罪だね」
 ブルドントの顔が心なしか微笑んだように見えた。鞭をバーロ兵に預け、オーピンクの元へ歩いていった。スーツが裂けて、素肌に真っ赤な鞭の跡が刻まれていた。
「人間は脆いね。あんな鞭一つで傷ついて使えなくなってしまうんだから。女の身体はもっと脆いんだよね。オーイエロー」
「なにが言いたいの……」
「だって、こうするだけで壊れちゃうんだから」
 ブルドントの腕が高枝切りばさみのように伸びた。ベルトのバックルをはぎ取り、呆気ない音がして、スカートが破けた。薄い繊維一枚になっている桃の秘園が掴まれると、腕を電流が流れた。
「あああああああぁぁ!」
「やめてえ! 何してるの! 変態! 馬鹿! バッカ!」
 樹里が叫ぶのを見て、ブルドントの腕にはもっと電流が流れた。
「樹里いい!」
 幼顔に汗が浮かんだ。捕らえどころのない目が白を剥いていた。桃の変貌した表情に樹里は目を背けたくなった。でも出来なかった。桃の苦しみは、樹里が与えている。樹里のせい。
「あははあはあはあ……」
「殺すんなら、私を殺して。何で私を殺さないの!」
「殺すさ。処刑なんだから。でも、殺す前に必要としているものを引き出しているだけさ。質問を変えてあげよう。国際空軍の基地は日本アルプスのどこにある! 各国の基地は壊したけど、お前らの超力基地の場所だけが分からないんだ」
 ブルドントは桃の秘園に手をあてたままきいた。答えなかったり、答えられないなら、壊されるだけだった。樹里は超力を抜かれて、力が入らなかった。もう何も考えたくなかった。桃が苦しむ表情を見るのは嫌だ。
「――にあるわ」
「よくぞ行った。褒美だ!」ブルドントが腕を振るうと、肉の切れる音と樹里の悲鳴が機械音だけする空間に響きわたった。
「はぁぁ」吐き気がこみ上げてくる。でも桃の受けた痛みを思えば、まだまだ序の口。「さあ、私達に用はなくなったでしょ。さあ、さっさと銃殺しなさい!」
「もうちょっとだけ、生きていけるよ。死に急ぐことはないだろう」
 血潮。黄色と桃色の戦闘服は鮮血を浴びて、黒ずんでいた。
「いいことを教えてやろう。反超力砲の効果は一時的だ」それがどうした。樹里はぐったりしていた。「だから、お前らの超力もまもなく恢復だ」
 うそ。
「だけど、僕たちは君達に超力が戻って欲しくはないんだ」
「……じゃあどうするっていうのよ」
「アチャ!」ブルドントは呼びつけた。
「はい、なんざましょ」
「バーロ潜入兵を二人連れてこい」
「はい、おーい、お前ら来い」「お前らこい!」
 アチャとコチャの声はいつまでも緊張感がない。二人に呼ばれて現れた潜入兵は他のバーロ兵と何ら変わるところが見えなかった。もっとも樹里はほとんど見てなかった。もうどうなったって、同じことだ。軍のとてつもなく大変な訓練の成果すら、この機械達には何でもなかったのだった。
「おい、お前ら起きろ!」
 二人への鞭。桃は声を上げた。チンパンジーみたいな声だった。
「この二人はバーロ潜入兵、国際空軍の基地に侵入して、内部から破壊を行う」ブルドントは誇らしげに手を広げた。
「内部からって」
「黙れ! こほん、この二人には特殊能力がある。誰かになりすますことが出来る、というな」
「驚いて言葉も出ないか。こいつらはな。お前らの生体エネルギーをちょっとだけ吸い込んで、お前らの超力をちょっとだけ吸い込んで、お前ら自身になり基地を壊滅させるのだ」
 後ろにいたバーロ兵が樹里と桃を降ろした。空中がひっくり返って、平衡感覚がしない。両腕をバーロ兵に支えられていた。ぐったりとして、顔を上げる力もなかった。死にたいよ。諦めたくないけど、惨めに殺されるなら、ここでひと思いに殺されたい。
 バーロ潜入兵は一歩前に出た。樹里はその長身を見上げた。人を見上げることは多いけれど、特別に大きく感じた。冷たい存在感だった。
「さあ吸い込め」
「はうう!」
「ああああ!」
 初めの悲鳴は桃だった。むき出しになった胸をバーロ潜入兵が掴みかかったのだ。樹里もその苦痛に喘いだ。奴のくるぶしが腹に突き刺さり、両肩の支えを失ってむき出しの黒土の元へ倒れ込んだ。
「はああん!」
 バーロ潜入兵の身体が黄色に光っていた。その隣では桃色に光っていた。樹里は苦痛が緩んでいくのに気づいた。変身が解除され、軍服のボタンが飛ぶ。叫んだ。脳の記憶がショートストーリーのように過ぎり、地震のように視界が揺らいだ。ぼんやりとその先に自分の顔が見えて、オーイエローがいた。
「そいつらを月面基地に連れていけ」
 透明のケースが用意され、ほとんど裸の二人はその中に入れられた。

 
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